Vol.11「北のアルプ美術館に訪れた変化」
八王子から、斜里へ。
アトリエ移設から始まる、
新たなアルプの物語。


芸術の観点から山を見つめ、1983年に終刊した文芸誌「アルプ」。
北のアルプ美術館は、「アルプ」の掲載作品や資料などを展示しており、SNOWSと山の版画家・大谷一良さんをつなぐきっかけの場所でもありました。熱心な「アルプ」読者で前館長の山崎猛さんが開いたこの私設美術館(現在は一般社団法人)に、大谷さんのアトリエの一部が東京から移設、再現されたと聞き、初冬の斜里町へ。出迎えてくれたのは現館長の山崎ちづ子さんと、この春から理事に加わった写真家であり芸術家の川村喜一さんでした。
伝わる熱量と、息づかい。
世界観が広がるアトリエの復元。
大谷さんのご家族から、ちづ子さんへ連絡が来たのは、2024年9月のこと。東京・八王子にある大谷さん宅のアトリエが老朽化により近く解体せざるを得ない状態になり、移設を引き受けてくれないかという相談でした。「迷いはありませんでした。大谷さんは初代館長の山崎が最も信頼していた方で、何より山崎はあのアトリエを残したいと強く願っていたんです」。
年明けから八王子のアトリエ内をすべて撮影し、それを参考に一つひとつ、配置を確認しながら復元作業を進めました。「まるでパズルみたいな作業でした」と振り返るちづ子さん。「復元したアトリエを見て、大谷さんのご家族が八王子の家のようだと喜んでくれたのが一番うれしいですね」。自宅アトリエと同じ寸法で、壁や窓、カーテンなどはすべて実物。筆や絵の具皿、バレン、愛用していたパイプなどもそのままです。「大谷さんが夢中になって版画をつくる姿が見えるよう。その息づかいを感じてほしいです」とちづ子さん。川村さんは「ここには、自然と人間の豊かな関係を描いた大谷さんの世界観が広がっています。訪れた人が作品の温度を感じ、創作を始めるきっかけの場になれば」と期待を込めます。



若い世代が大谷さんの版画に触れる。
新たに生まれた、人の流れ。
アトリエが公開された11月1日は、昨年好評だったスノーサンドの「北のアルプ美術館」限定パッケージの発売日でもありました。美術館をより多くの人に知ってもらいたい。売上の一部を運営に役立ててほしい。そんな背景から生まれ、大谷さんの「雪の斜里岳」をモチーフにしてデザインされたパッケージ。「身近な山が描かれていて、地元の方の関心も高まりました。贈って喜ばれたとか、おうちに飾ってくださったとか、うれしい声も聞こえます」とちづ子さん。「版画の中の絵をパーツごとに分けて、組み立て直し、新たなデザインに仕立てて世に送る。版画作品とはまた違った魅力を届けられますね」と、川村さん。スノーサンドをきっかけに、それまで知らなかった世代が大谷さんを知り、美術館を訪れています。また、地元の小学校の子どもたちが美術館で作品に触れる機会も生まれました。終刊から40年余り、アルプの世界は新たな広がりを見せています。


静かに、心地良く、自然と
向き合う空間でありたい。
アトリエの復元、美術館パッケージと、少しずつ変化が進む北のアルプ美術館。「自然賛歌の精神を後世に伝えたい。この山崎の思いを次世代へつなぐ。これは変わることのない私の役目です」という、ちづ子さんの決意。生前の猛さんと交流を持ち、バトンを受け取る世代として美術館に関わるようになった川村さん。「ここを時の止まった場所にはしたくないんです。新たな出会いの場として、人がつながり、アルプの精神をつないでいく。そんな覚悟で臨んでいます」。
長く美術館を存続させるため、次の世代を中心に新たな運営体制の構築も始まりました。「美術を地域にひらいていく拠点として、文化を守っていく場としての価値を高めていきたい」と川村さんは思いを語ります。猛さんがつくった白樺の森の再生など、新たなアイデアも次々生まれています。「若い人たちが何をしてくれるのか、楽しみです」と目を細めるちづ子さん。アルプの精神を引き継ぎながら、自然と共に静かな時を過ごす空間であり続けるために。美術館は新たな歩みを始めています。



※撮影・取材 2025年11月
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